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「おい、お前」
「・・・え? あ、はい!」
「人間が相手じゃ手を下せないか?」
「いや、そんな、その・・・」
「俺には、あれは人間に見えなかったけどな。悪霊そのものじゃねえか」
シンは、銃をホルスターに収めた。ルングは、シンと目を合わせず、何も答えなかった。
「まあ、いいさ。でもな、お前、俺と初めて会った時に言ってたよな?『ミティのことは、命に代えても守る』って。だから、俺はお前を自分のグループに選んだんだよ。こいつ、本気だって思ったからだ」
「・・・」
「でも、ためらうようじゃ先が思いやられる。そんなんでお前、本当にミティを守れるのか?」
「・・・」
沈黙しているルング。シンは、ふーっと鼻から息をつくと、ぽんぽんとルングの背中を叩いた。
「悪い。今のは言い過ぎたな」
「いえ・・・本当のことですから」
「ところで、周囲の調査を頼む。ミティ一人じゃ、一週間かけても収穫がなさそうだ。あいつ、耐性A以外、一つも取り柄がないからな」
見ると、ミティは熱心に、井戸の蓋を穴の開くほど見つめていた。
「は・・・了解です!」
ルングは、顔を粗く手の甲で拭うと、ミティのそばへ走っていった。
二人が動き出すと、シンは、リオとペルスのそばへ移動した。
見る前から分かっていたが、無残な死体だった。
マントは、耐熱の許容範囲を超えて、焼けて崩れていた。悪霊の炎は、二人の服、髪、肉、骨まで達しており、どちらが誰なのか、一目では判別もできない有り様だった。
シンは、死体の一つにかがみこむと、マントの胸部分を調べた。マント自体は見る影もないが、警団バッジは煤けながらも焼けずに残っていた。バッジをマントからむしり取り、裏側が見えるようひっくり返す。
そこには、ペルスの名前とコードナンバーが刻まれていた。
シンは、同じことをもう一つの死体にも繰り返した。バッジの裏側に、リオの名前とコードナンバーを確認する。
しばらく無表情に眺めていた。その間、数回瞬きをした。
「シン隊長!」
ルングに呼ばれ、シンは声のしたほうに首をひねった。その時、二つのバッジをポケットにしまいこんだ。ルングとミティのほうへ歩き出す。
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