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「どうした? なにか見つかったか?」
「はい! この井戸なんですけど」
ルングに促され、シンは井戸の中を覗き込んだ。暗くて、途中までしか様子を観察することができない。分かったのは、井戸の壁面内部の一部が黒く煤けていることくらいだ。
「井戸が、どうかしたか?」
「耳をよく澄ませて下さい」
ルングは、石を拾うと井戸の底に落下させた。水音は、いつまでたっても聞こえてこない。
「完全に干上がっているな。よくある話だろ」
「でも、ほら、こちらを」
ミティが、井戸のそばにあった桶を示した。桶の底部分を持ち、中をシンに向けて見せる。桶の内部には、わずかだが湿り気があった。
シンは、眉間に皺を寄せた。おかしい。昨日も今日も、この付近では雨は降っていない。それなのに、なぜ桶の中が濡れているのか。
そもそも、桶があることも不思議だ。この井戸は干上がっていて使えない。だが、桶は、井戸壁面に取り付けられた取っ手に縄でつながれている。桶はまだ十分使える代物なのに、なぜこんな不便かつ無意味なことをするのか。
シンは、ベルトに携帯しているライトを取り出した。スイッチを押し、井戸の中を照らして覗き込む。
暗くてよく見えなかった井戸の底が、肉眼で観察可能になった。
干上がった井戸の底には、白っぽいものがいくつかバラバラと散らばっていた。三人は一様にそれを凝視し・・・それから、はっと息を呑んだ。
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