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気難しい父と世話焼きの母、それに手の掛かるおばあちゃん。浩二にとって快適とはいえないだろうに、文句も言わずに我慢してくれた。その甲斐あって貯金もでき、そしてついに別居の目処も立ちそうなところまできた。
けれどもそのあいだに、両親だけでは世話しきれないほどにおばあちゃんのお老いが進行してしまった。いつ、どのように別居を伝えるか。タイミングを探っていた矢先の不幸だった。
「その、別居のことだけどさ」
「パパ、おかえり」
浩二がなにか大切なことを伝えようとしたときに亜希子が戻ってきた。まるで子犬が尻尾をふるように、全身で浩二の到着を迎え入れている。
「亜希子。ただいま」
わたしたち夫婦はそれぞれの想いを胸にしまい、娘の両手を預かりながら待合室へ戻った。浩二は他人行儀にお辞儀する。
「今回は突然のことで。おばあちゃんはどうですか」
「まだ集中治療室で、それっきり」
気がつけば待合室にはべつの家族の姿もあり、わたしたち家族は身を寄せ合うようにする。亜希子がピンクの靴をブランコのようにブラブラ動かすのを感じながら、インフルエンザの予防ワクチンを推奨するポスターを眺めるでもなく見ていた。しばらくすると栗色に染めた髪を団子にまとめた看護師さんが入ってきた。
「黒木シズエさんのご家族は、説明室にいらしてください」
全員に緊張が走る。そこで母が全員に視線を巡らせた。
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