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立命 -加奈編-
携帯電話に母からの着信があったのは、ノルマをこなし、お惣菜でも買って帰ろうと決めた夕暮れどきだった。
「おばあちゃん、病院に運ばれたのよ」
おどろきを隠しきれないのだろう、携帯越しの声はひどく狼狽(ろうばい)していた。娘の亜希子(あきこ)が熱を出したのかと心配したわたしは、資料をクリアファイルに収めながら首を傾げた。
なにを慌てているのだろう。おばあちゃんならいつものように朝ご飯を食べ、玄関でホッカイロを手渡してくれたじゃない。それが急に。
「落ちついて聞いて。おばあちゃん、心臓が止まっているの」
「……え」
わたしはぽかんと口を開けた。絶句するわたしに母は早口で告げる。
約1時間まえ、おばあちゃんがデイサービスでのお遊戯会の途中で椅子から突然に崩れおちた。施設のひとたちが駆けよったときには、すでに心臓も呼吸も止まっており、さきほど大学附属病院に運ばれたばかりという。現在も意識不明の重体らしい。母はもしもの事態にそなえて亜希子を幼稚園まで迎えにいき、父はわたしの夫である浩二(こうじ)に連絡中という。
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