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母を含めたみんなは思い悩んでいる様子だった。けれどもわたしの結論はすでに出ていた。おばあちゃん自身がポックリ逝かせて欲しいと仄めかしていたからだ。「やめてよ、演技でもない」と母は無理矢理笑い話に変えていたけれど、賢いおばあちゃんのことだ、自分の行く末を案じていたのだろう。
治療はせずにこのまま自然な経過に任せることが、おばあちゃんの意向だと想う。けれどもそこには問題が残っていた。わたしたち家族が、治療しないという事実を受け入れられるかどうか。
「本当に、助からないのかしら」母がすがるように言う。
「私、テレビで見たことがあるわ。心臓が止まった人でも意識が戻ることがあるって」
「お義母さん。自分も一緒に見ていましたが、あれはかなり若い方でしたよ。今の状況と一緒だとは、とても」
多分みんな、なんとなく分かっていた。治療はしないほうがいいと。けれども取り返しのつかない決断を下すことが決まり悪くて言い出せないようだった。
みなが言い出しにくいのならわたしから。そう決意を固めたときだ。
「治療は、やめよう」それまでダンマリを決め込んでいた父がきっぱり宣言した。
「治る見込みが低い以上、おばあちゃんが苦しむ選択をするのは忍びない」
それはわたしが伝えたい想いとほとんど一緒だった。けれどもわたしには強い違和感があった。わたしと母が介護をしているときも、自分はリビングで新聞を広げて全然手伝わなかったくせに。
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