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しかしながら母にはその一言が強く響いたらしく、ハンカチを手に顔を覆うと嗚咽をこぼし始めた。わたしはなんだか鼻白む想いになりながらも、亜希子だけは動揺させまいとちいさな肩を抱き寄せた。ちいさな身体からはセーター越しに分かるほどの熱を発していた。
「治療はしない。それで良いな」
こうしてわたしたち一家の意見は束ねられて赤崎先生に告げられた。先生は神妙な面持ちで聞き届けると「分かりました」と頷いた。どこかその声に安堵のニュアンスが混ざっているのを、わたしだけは聞き逃さなかった。
「しばらくここでお待ちください。準備が出来次第に案内します」
「ありがとうございます」
それからしばらく、みなが暖かい相談室で待っていると面会室へと通された。それはさきほどの処置室とはべつで、救急治療室のもっとも奥の部屋だった。赤・青・緑のモニターが扉のうえでわたしたちを物々しく見下ろしている。部屋はリネンと同化するほどに真っ白で、部屋のまんなかには、愛用している紫色のベストではなく、緑色のガウンを身につけたおばあちゃんがベッドに横たわっていた。
「おばあちゃん」
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