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気がつけばわたしは、スカートのすそをお守りのように握りしめていた。完全に混乱していたけれど、自分がなすべきことだけは理解する。
「とりあえず、病院に向かうね」
「加奈(かな)も事故に気をつけなさい。外は暗いから」
トートバックにお弁当箱を詰めこむなり、わたしは階段を駆けおりた。大理石風の床を蹴るようにして外へ一歩踏み出すと、冬の寒々とした空気が鼻先をくすぐった。おもわず首をすくめる。暦は12月。年の瀬も近い。「今年も家族みんなで過ごせてよかった」満足そうにコタツでお茶をすするおばあちゃん。湯気の向こうに透けたシワくちゃの笑顔が、北からの風にさらわれていく。
鉄サビた駐輪場をまわり、職員駐車場に停めた軽自動車へと乗りこむ。エンジンを掛けようとキーを鍵穴に挿そうとする。手がふるえてうまくいかない。それが寒さのせいでないことには気がつかないフリをする。なんとかエンジンを掛けるとアクセルを強く踏み込んだ。
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