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わたしは母に防寒着をあずけると、亜希子を連れて自動販売機を探した。迷子にならないようにつないだ手にはいつもより強い力が入っている。
病院は怖いところだと思う。リノリウムの床はどこまでも続きそうで、CTやMRIと書かれた看板は妖しく光っている。廊下で検査を待つ人たちの表情にも不安の影が差し、それはきっと、わたしたちもおなじなんだ。
「ママ、トイレ」
亜希子がお手洗いのまえで、もじもじと足を交差させた。娘なりに気を使って我慢していたのだろう。わたしはそのいじらしさを愛おしく想いながら、お手洗いの外で待っていると手を放した。
ひとりになったわたしは壁にもたれ掛かりながら、おばあちゃんが亡くなるかもしれない現実に直面していた。それはとてもかなしく受け入れがたい。けれども、そこに浮かぶのは、甘い痛みばかりではない。やっと自由になれる。そんな不謹慎な想いが脳裏をかすめた。
ここしばらくずっと、わたしたち家族はおばあちゃんの生活に縛られていた。
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