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亜希子には聞かせられない話になるから、だれかこの場に残るべき。そういうことみたいだ。やがて浩二が亜希子のお守りに立候補した。「いいの」とたずねると、亜希子のおかっぱを優しくなでながら「行っておいで。亜希子はオレが見とくから」と笑った。その思い遣りに感謝しつつ、わたしたち三人は説明室に赴いた。
説明室はおおきなデスクトップパソコンと消毒用アルコールが置いてあるだけのシンプルな空間だった。わたしたちは扉の手前の椅子に横一列に座って先生の到着を待つ。
「お待たせしました」
遅れてやってきた先生はわたしとおなじくらいの年齢だった。精悍な顔つきと体型ではあるものの、後ろ髪は明後日の方向に跳ね、目の下にはおおきな隈を浮かべている。胸元の名札には赤崎(あかさき)と記されていた。
「初期対応をさせていただいた、医師の赤崎です」
落ち着きある声に、わたしたちは自然と頭を下げた。赤崎先生は画像や説明書きを使って説明してくれた。熱心な語り掛けのおかげで、素人のわたしでもおばあちゃんの容体について理解することが出来た。
おばあちゃんが倒れた原因は、率直に言えば、よく分からないということだった。
電解質や血糖値などの血液検査、脳や心臓を含む全身の画像検査では特に異常は見つけられなかったという。それは治療の施しようがない、ということにもなるらしい。
「現在はお薬でなんとか一命を取り留めていますが、一時凌ぎに過ぎません」
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