光明流転の剣(like a Rolling Stone) 藤堂平助

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 首は血を吹きながら、月の下で丸い影になって転がる。 「嘘だよ。馬鹿」  この追っ手、藤堂平助(とうどうへいすけ)は、二十歳で新撰組の八番隊隊長を務めた、最年少幹部である。 「私は、検分役にしかなりませんね」  藤堂に着いて来た年上の部下が、そう苦笑した。  藤堂は、江戸っ子気質であったという。京の地になじんでいたかは不明だが、どうも人からは好かれる性質だったようではある。  剣の腕も、相当に立った。戦闘の際には常に真っ先に敵に飛び込み、ついた渾名は「(さきがけ)先生」。  まだ乱れていない敵陣へ切り込んでいくのは、傍から見れば自殺行為である。だが、藤堂には鷹の目が付いていた。  戦場を俯瞰し、死地の中にある光明を見出し、そこへ体ごと飛び込んで行く。その中途に敵がいればなぎ倒す。  体ごと跳ねて斬るから、一撃が重い。それで敵を討ち取れば、さらに死地は減じる。  戦場でこれを繰り返すのが、一見無謀ながら、藤堂一流の生存技術であった。  新撰組は、多摩の試衛館(しえいかん)出身の近藤・土方らによる一方的な価値観が大きく働いた組織である。藤堂もまた試衛館時代から近藤とは懇意であり、一方ならぬ信頼を受けていたと見られる。     
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