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忍び足で旅籠を出た十郎と雪姫は街道を避けて山道へ急いだ。
「説明してくれ十郎。なぜ慌てて逃げるんだ? 浅野家なら……」
「説明している暇はない。山道を抜けてどこかの村へ忍び込もう」
慣れない山道で何度もつまずく姫を抱え上げ、十郎は急ぎに急いだ。
「こら! このような格好は恥ずかしい。頼むから降ろしてくれ」
懇願を無視する十郎の首に抱きつき、姫は身体中に火照る思いを感じた。
峠を登り、下りきると一軒の茶屋があり、十郎と姫は休息をとった。
「見てたわよあんたら。よくもまあ、べたべたと恥ずかしい真似を」
茶屋の若い娘が十郎と姫の顔をじっと見て頬を染めた。
「あら? 娘さんのほうは、どこかで見たような顔だねえ」
十郎はふと立ち上がり、再び姫を抱えて麓の村へと急いだ。
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