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聖史郎の運転する高級外車が湾岸線を駆け抜ける。人口が増えつつある地域だが、さすがにこの時間は車の通りもほとんどない。同じ車線を走っているのは、聖史郎の車と後ろのバンくらいだ。それをいいことに聖史郎はいつもよりスピードを上げ、ベイエリアにあるマンションへ滑り込む。
そっと玄関の扉を閉じると、妻の真知子が小声で「おかえりなさい」と声をかけた。麗美との情事を見透かされたような気がした聖史郎は、
「まだ起きてたのか。夏海は?」
と、娘の事を尋ねることで真知子の気をそちらに向けた。
「寝てるにきまってるでしょ」
「そっか、そうだよな」
当たり前の質問にクスッとする真知子。娘の夏海は去年4歳になったばかり。2人の出逢いの場所が海だったことと、ちょうど海の日に生まれたことから「夏海」と名付けられた。2人にとっては目に入れても痛くないほど愛おしい愛娘だ。
夏海の部屋をこっそりと覗く2人。“天使”という言葉が同時に頭に思い浮かぶほど、愛らしい寝顔を浮かべていた。
「今日お買い物に行ったら、パパのチョコ私が選ぶんだーって売り場に貼り着いちゃって」
「へぇ、そりゃあ楽しみだな」
バレンタインデーに期待を寄せる聖史郎。
「何か食べる?」
「いや大丈夫。食べてきたから」
「そう。大変ね、インフルエンザ。あなたも気を付けてよ」
「大丈夫。お前と夏海もな」
「平気よ。あの子、バイ菌を退治する絵本ばっかり読んでるわ」
「いいね。さっすが医者の娘」
「もう」
冬特有の心配事の中にも、あたたかな団らんがそこにはあった。
家族になってよかった……。
聖史郎は改めてその喜びを噛み締めた。
「そういえばあなたに荷物が来てたわよ。妹さんみたい」
と言って真知子が差し出してきたのは、小さなダンボール箱。差出人は確かに聖史郎の妹、紗江からで、聖史郎がちらりと見た住所も彼女のものだった。
「バレンタインデーのプレゼントかしら。じゃあ私、先に寝るね。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
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