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2.聖戦はチョコよりも苦く
『不起訴処分告知書』
向かいに座った弁護士が聖史郎に渡したA4用紙には、そう記されていた。
「これで、罪に問われる事はありません」
弁護士から告げられたその一言に、聖史郎の横に座った両親が何度も弁護士にお辞儀をした。母は泣き、父は両手で弁護士と握手を交わしている。
聖史郎は、急に自分の中から厄が祓われた気がしていた。
「それで、できるだけ誠意を見せておいた方がよろしいかと思いまして、示談の件についてですが……」
弁護士の声が徐々に遠くなっていく。
「……生。……先生? 大丈夫ですか保志宮先生?」
3度目の呼びかけで聖史郎はやっと看護師に気づいた。務めている病院の診察室へと、飛んでいた意識が戻ってきた。
「あ、ああ、すまない。何かな?」
「次の患者さんをお呼びしてもいいでしょうか?」
「あ、ああ。大丈夫だ、呼んでくれ」
言われたままに返すのがやっとだった。
「最近、お顔がすぐれないようですけど大丈夫ですか? 少し休まれたほうが……」
「大丈夫だ。患者さんを待たせてはいけない。早く頼む」
「は、はい……」
看護師は会釈すると次の患者を呼びに行った。
あれから一度も発言は無い。
(あの件は決着がついたはずだ……)
そう何度も頭の中で繰り返していた。だが、繰り返すごとに心が濁っていくのが分かった。白いインクに一度でも黒いインクを落とせば、二度と真っ白なインクには戻らないように、聖史郎の心を蝕んでいた。
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