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渋滞につかまっても、図ったように始業10分前。 相変わらずの気だるさを引き連れたまま、事務室のドアに手を掛けた。 「おはようございまーす。」 その応答として、パラパラと返ってくる挨拶を浴びながら席につく。 パソコンを開きながら、思い出した。 あの鳥。 なんてことない、名前も分からない鳥。 …名前かあ。 姿を見て名前が出てくる鳥なんて、スズメとカラスと、ハトぐらいか。 そう考えると、知らない生き物に囲まれているんだな。 気づいて、少し世界が広がった感じがする。 ―単純だ。 「東崎くん、なんでパソコン開きながら固まってるの?」 右側から聞こえてきた声で、我にかえる。 確かに、パソコンを半開きにした体勢で静止していた。 …恥ずかしい。 何故かパソコンを閉じて、体ごと右に向いた。 「今朝、茶色のでかい鳥見て、名前なんだろうって思ったり…」 ちょうど無知の知と、世界の広さについて思いを馳せていたので、歯切れが悪い。 しかしなんとか取り繕った。 そそくさとパソコンと向き直ろうとすると、彼女は平然と言った。 「トビじゃない?」
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