18人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
それは、ある日の登校途中でのこと……。
「――ねえねえ、新しいアレ知ってる?」
「ああ、新しいアレでしょう? もちろん知ってるよ」
いつも使っている電車の中で、近くにいた他所の学校のJK二人がそんな会話をしているのが耳に入った。
なんだ? 新しいアレって?
御多分に漏れず、流行りものには敏感なお年頃である高校生の僕は、盗み聞きしてるのがバレないようそちらに目を向けることなく、車窓の外を眺めているふりをしてさりげなく耳を傾ける。
「もう試してみた? あたしは試したけど」
「あたしもさっそく試したよ。新しいアレだからね」
「で、どうだった?」
「うーん。まあそれなりかなあ……」
青春真っ盛りで毎日が楽しそうなその女子高生二人組は、落ち着きのない声でなおもその〝新しいアレ〟とやらについて話を弾ませているが、その曖昧な言葉からでは皆目その正体について判断がつかない。
ほんとなんなんだろう? 新しいアレって……なんか気になるな……。
気にはなるが、見ず知らずの僕がいきなり「なんですかそれ?」と尋ねるわけにもいかない……。
ま、僕がピンとこないってことは、まだそれほど流行っているものでもないのだろう。
もしかしたら化粧品関係とかあの日の用品とか、女子にしか関係ないものなのかもしれない。
ならば、別に知らなくても流行に乗り遅れることはないか……。
この時はそんな風に判断を下し、もうそれ以上追及するようなこともなく、そのことは学校へ着くまですっかり忘れ去っていたのであるが――。
「――なあ、おまえ、新しいアレ知ってるか?」
「ああ、アレな。新しいアレだろう?」
教室に入るなり、中ではクラスメイト達も〝新しいアレ〟についての話題で持ち切りだった。
なんだ? また新しいアレか? 女子だけの話題かと思ったらそうじゃなかったのか?
すっかり局所的な一部だけの流行だと油断していたが、親しい男友達らも話しているのを聞いて、僕は少々焦りを覚え始める。
これは、僕も乗り遅れないようにしなくては……。
最初のコメントを投稿しよう!