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新しく買った炊飯器で米を炊いたら、大判小判がザックザク出てきた。可笑しい。近所の精米機にかけて白米にしたはずなのに、なぜ黄金色に光っているんだ? それに、コンビニの特売にかかった玄米から大判小判が出てくるなんて話、聞いたことがない。
シャモジを取り出し、米を掬う。固い。今日は奮発して蟹メシの出汁を入れたというのに、蟹メシの要素はどこにいった? 金ぴかの大判小判に蟹メシの具材はかかっていない。カニカマの気配すらない。なけなしの金で買ったカニカマはどこにいった?
掬いにくいシャモジは置いて、手でご飯をよそう。けれども、どんなにバランスよく挿していっても、やはり目の前にあるのは大判小判だ。あのふっくらとした炊き立ての、柔らかい白い山盛りには到底及ばない。
タクワンを横に置く。もしかしたら、一時の疲れかもしれない。こんなバカげた妄想を見るなんて、とても疲れているせいなんだ……。そう思い、白米を一口食べる。が、硬い。歯が欠けてしまったんではないだろうか? 思わず手で押さえ、前歯の様子を見る。欠けて、ない。そして箸にある小判に少し欠けた様子がある。
「マジ、かぁ……」
どうやら気のせいでも幻覚でもないのらしい。この硬さはモノホンである。しかし疑いは晴れない。保健所を持って、精神科に行く。こうこういうことが起きて、どこか頭に異常があるのではないかと思い、診断してほしい、と受付の看護師に尋ねた。看護師は、数枚の紙をくれた。そこにある質問を答えていき、空欄を埋めていった。そして医師と対面して、質問に答えること数分。「異常はないですね」といわれた。
「マジですか?」
「マジです」
医者も同じ調子で返してきた。こうして、自宅に大判小判が出てくる炊飯器があることが、確定した。
それにしても、どうやって金ぴかを金に換えればいいのか? 質屋に持っていったらぼったくられそうな気がする。どうすることもできないまま、大判小判を眺める日が続く。
カチリ、と小判を噛んだ。何度も噛んだ痕の窪みに、また金色に光る層が現れた。とりあえず、金塊にして売り飛ばそう。
知り合いの鋳造屋に電話し、金を溶かしてもらうよう頼んだ。そのあと、自分の死体を見ることになるとは思いも寄らない。不純物として炉の中で溶かされる自分自身を見ながら、そう思った。
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