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結果から言うと、私たちは助かり水没もしなかった。
砂は火を消して、水を吸収する。水を吸収して水の進行を遅らせて、火を消して行き場を失わせてナノマシンを暴走させなかった――というのが私の仮説だ。
ただ、何故ここに消防士が来たのかがわからない。
「スプリング博士。ここに居られたのですね」
でも、砂掻きが一段落した頃にその答えを彼はすぐに教えてくれた。
「君は勘違いをしているよ。私にはそう呼ばれる資格はない。――私の家族でそう呼ばれていいのは兄さんだけだ」
私は博士号を持っていない。それどころか、学校というものに通ったことがない。
その理由は単純なもので、私はこの見た目を酷く嫌悪していた。
幼い頃、通り魔の手によって炎が私の全身を包み込んだ。一命を取り留めたものも、私は綺麗な部分が一つもない爛れた醜い身体になってしまった。
きっと、燃える私の近くに居たのに何も出来なかった兄はずっと悔やんで、後ろめたかったのだろう。
それがこの世界を今にも水没させようとしている、消火する水が生まれたきっかけだ。
この話は噂話という伝言ゲームで、兄が全身火傷を負っているからテレビに出ないという形に変わっていた。その噂話を信じて、彼は私を兄だと思ったのだろう。
「私はミラ・スプリング。スプリング博士の弟で、今はしがないマンション管理人だ。君の名前は?」
どうして、彼が兄を探しているのかは今はまだわからない。
「不知火 操。辺境唯一の消防士、かな。多分」
ただ、この辺境で消防士をしているという事実は気に入った。
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