前世断ち切り職人

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 新しい人生をおくりたい。私だけの、新しい人生を。  私には前世での記憶がある。  前世の私は、踊り子だった。宮廷での専属の踊り子になることを目指して、でもなれずに、その前に大怪我をして、ただの旅芸人の踊り子で終わった、そんな踊り子。前世の私はずっと思っていた、「来世では、踊りでトップに立つ」と。何度も何度も、思っていた。意識していた。  だからだろうか、今の私にはその記憶がある。うまく言えないが、ふとした瞬間に思い出すのだ。その強い意志を。  前世の私に導かれるように、私もバレエの世界に身を置いた。今の私が生きる世界では宮廷での専属の踊り子なんてないけど。でも私は、有名なバレリーナに、みんなに評価されるバレリーナになりたい。そう思って努力している。ずっと、ずっと。  食べるものには気を使って、毎日毎日レッスンをして、叱られて。  次世代のトップとして期待されているらしいけれども、でも。  正直、つらい。  だってそもそも、これは私の夢ではないのだ。前世の私の、夢。私に選択権がないのだ。私の、人生のはずなのに。  やめたいやめたいやめたい。本当はもう、やめたい。  でも、夢に見る。前世の私の、夢。やめたいと思う私を恨みがましい目で見ている、前世の私。  だからやめるって言い出せない。  でも、やめたい。何になるか決めてないけど。これから何になれるかもわからないけど。  だけど、もういやだ。私の、私だけの、新しい人生を送りたいっ!
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