前世断ち切り職人

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 そんな時、その男に会った。 「前世の記憶を消し去りたいとか?」  メガネの奥で目をほそめる、ビル・バランスと名乗る男。 「私が引き受けましょう。前世断ち切り職人の私が」  なんだその怪しい肩書きとは思ったが、どうも私の他にも前世の自分の束縛に苦しんでいる人がいるらしい。そういう人たちを助けてくれているそうだ。前世を、断ち切って。現世の私だけを独立させてくれる。  全面的に信じていたわけではない。それでも、前世を消し去れるというのならば、私だけの人生を送れるというのならば、私はそれにすがりたかった。  留学費用として用意していたお金を、ビル・バランスに払う。騙されているのだとしたら痛い出費だが、もうバレエをやらなくていいのならば気にすることではない。  ビル・バランスのオフィスで、ふかふかの椅子に腰をかける。 「さぁ、目を閉じて。楽にして。次に目覚めた時には、あなたは生まれ変わったような気分になるはずですよ」  それを聞いたのが私の最後。次の瞬間には、私の意識は闇に落ちていった。
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