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次世代のトップスターとして注目されていたバレリーナが、突然引退したらしい。どうも病気が原因だ、という噂もある。
実際のところ彼女は、突然「バレエ? 何それ、そんなものやりたくないわ」などと言い出したらしい。疲れがたまっていたのではないか、無理をさせていたのではないかと親やコーチは頭を抱えているらしい。
「前世、ねぇ」
そんな新聞記事を読みながら、ビル・バランスはつぶやいた。
「そんなもの、妄想だと思いますがねぇ」
彼がやったのは一種の催眠療法。彼女が前世だと思っていた記憶を、封印しただけ。
でも、彼女のこれまでの人生は、彼女が前世だと思っていたもの密接にかかわっていた。全部、全部、消えてしまった。彼女は生まれ変わる、実際のところ、ここから、ゼロから、始めなければいけないだろう。
もらった報酬を眺める。
詐欺? いいや、
「本人の気持ちをすっきりさせてあげたのだから、詐欺ではありませんよね」
自分に言い聞かせるように彼はつぶやくと、新聞を放りなげ、手元のコーヒーに口をつけた。
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