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司さんは難しい顔をして首を傾けた。
「それは難問だな。だが俺の言える答えは簡単で、ただ1つ。『わからない』だ」
「わからない……ですか」
「そもそも『藤宮誠司』の定義は何だ?俺の息子であるならば、お前は『藤宮誠司』だが、そういう答えじゃないだろ?」
「だから知りたいんです。『変わらない』と言った理由を」
司さんは遠いところを眺めて考える。
「お前は、記憶を失くす前と今が同じでありたいんだね」
「同じでありたいというか、俺が、今までの『藤宮誠司』を殺して乗っ取ったんじゃないかって……」
司さんが微かに笑った。
「その優しい所だよ、変わらないのは。お前が不安なのは記憶が無いことじゃなく、今までの藤宮誠司を消してしまった事。それに関してなら、俺はお前の不安を拭える」
俺は身を乗り出す。
「小学校の低学年だったかな。授業参観に出られない事で真奈と揉めてた時に、お前が言ったんだよ。『授業なんていつでも見られる。パパにとって必要な研究なんだから、そっちに行って』って。
あの頃からお前は無駄に悟っていて、自分の事よりも周りに対して優しかった。今となんら変わらない」
「安心しろ」と肩を叩かれ、俺は俯いた。
思わず涙が溢れてきて、司さんが声を出して笑った。
「そう言えば、お前が泣いてる所を見るのは幼稚園以来かもな」
「……泣いてないです」
「そこ、嘘つく必要無いだろ」
俺が落ち着くまで司さんは……父さんは側にいてくれた。
この人が父で良かったと、誇らしかった。
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