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◆
退院時、母である藤宮真奈が迎えに来てくれた。
ざっくばらんとした態度がやはり清々しかった。
「ここが貴方の家よ。記憶がないんじゃ他人の家な気がするでしょうけど、貴方の家だから自由にしなさい」
家は1棟4世帯が入居可能な2階建てのマンション。
階段を上がって2階の左側が俺の家で、右側が水嶋さんの家だった。
松葉杖を器用に使いこなして階段を登り、家の中を見て回る。記憶に繋がる物はない。
最後に自分の部屋に入る。
ダラシない人間の部屋、と予想した通りの雑然とした部屋だった。
勉強机に散らばるペンや文房具類。部屋の隅に追いやられた衣服。洗濯前か済みかも今の俺にはわからない。
本棚は適当にしまわれたような、分類されていない並び。
そんな予想通りの部屋で、1つだけ予想外なものがあった。
それは部屋に入ってすぐ、扉の横の壁に立てかけられた大きな全身鏡。
鏡に対して微かな嫌悪を感じ、鏡には向かい合わず部屋をよく見て回る。
そしてまた一歩、自分の仮説が確信に近づく。
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