1人が本棚に入れています
本棚に追加
ザワザワ
意味を伴わない周囲のざわめき。
長く深い眠りから目覚めたように、気怠さを伴って瞼を開ければ、視力からくる膨大な情報を脳が高速で処理し始める。
自分を取り巻き、見下ろす学生たち。
空とを隔てるように拡がった枝葉と、その奥の三階らしき窓から身を乗り出してこちらを眺める者たち。
脳の処理過程に重大な欠陥がある事は、すぐにわかった。
どうしようかと身体を起こせば、足先から頭部にかけて鈍痛が襲う。
自身のポケットを探り取り出したスマホは、バキバキに割れていて使えそうにない。
自分が動く度に起こるどよめきが、耳鳴りとなって脳内を侵す。
「誰か、」
自分の声は予想以上に掠れていた。胸に痛みもあったが、喋れない程ではない。呼吸もできているし。
だから続けて周囲の学生に声を掛けてみた。
「救急車を呼んでくれたか?」
反応は鈍い。誰かがやっているだろう精神だろう。
面倒なので、目に留まった女子生徒に向けて言う。
「そこの君、救急に連絡してくれる?」
「えっ?あ、はい」
彼女はあたふたと連絡し、しどろもどろに応える。
最初のコメントを投稿しよう!