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苦しい生活だったが、なんとか金をためてようやくコイツを買えた。
コイツのおかげで俺は新しい人生をはじめるはずだった。
自由で素晴らしい人生がはじまるはずだったのだ!
だが現実は厳しい。さっきからピーピーとアラームが俺を呼びつけている。
鉛を飲み込んだかのように重い気持ちで、俺は部屋の扉を開ける。
部屋のベッドには機械に繋がれた老人が寝ていた。
俺はソイツの内臓に繋がれているチューブを取り外し、軽く洗浄するとつなぎなおした。
その後、オムツを交換してやり綺麗に尻を拭いてやる。
ついでに寝相を変えてやる。そうしないと床ずれしてしまうからだ。
こうして数時間おきにこいつの介護をしなければいけない。
せっかく俺は自由になったのに、この老いぼれの世話をしなけりゃいけないので、遊びにも行けない。
「……もう辞めちまうか。介護なんてよ」
自然と俺の口からそんな言葉が漏れた。
そっとつぶやいた自分の声が耳に届いた時には、俺はもう決心していた。
俺は老人を一瞥すると部屋を出た。
「俺は自由に生きてやる」
不思議と晴れ晴れした気分だった。
「続いてのニュースです。またもや介護放棄による老人の孤独死が起きました。
孤独死していたのは都内に一人暮らしをしていたエヌさんです。
エヌさんは介護用アンドロイドをVRマシーンで操作し、自分で自分の介護をするといういわゆる“オレオレ介護”をしていましたが、介護疲れによって自分の介護を放棄したものと思われます。
なおエヌさんが使っていた介護用アンドロイドは近所のパチンコ屋で見つかったとのことです」
「高齢化によって介護をする人が減り、仕方なくアンドロイドを遠隔操作して自分で自分を介護をする時代です。
ですが、いくら自分とは言っても介護とはやはり重労働なのですね。
介護をやめれば自分が死ぬと分かっていても、たまには息抜きをしたくなるんですねぇ。
これも一種の自殺と呼べるでしょう」
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