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―――――公園の木の上で、雀がチュンチュン泣いている。
近くを見慣れた白い車が通り過ぎた。
向かいのオッサンの車だな、ありゃ。
俺は公園の入り口から元気よく駆け出して行った少女を見送って、しばらくその場に立ちすくんでいた。
「おにいさんもおしごとがんばってね!!! いじめる人にはちゃんとやだよって言ってね!!!」
振り返ってそう叫んだ少女は、そのまままっすぐに前を向いて走っていった。
ないないづくしのこの俺にも、ほんの少しだけの勇気を残して。
「さーーーーて。俺も行くかな!!!」
ベンチに置きっぱなしになっていた通勤カバンを手に取る。
そうして、ゆっくりと歩きだした。
カバンには暴言まみれの録音が入ったボイレコがあった。
サビ残まみれの勤怠記録が入れてあった。
……胸にはずっと、持つことができなかった勇気があった。
俺が望まなかった「新しい朝」は、「新しい一歩」を踏み出す勇気をくれたんだ。
「―――――行くぜ、労基!!!」
<終>
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