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「それで?」 「……朝が来なければ、もう学校に行かなくていいと思ったの」 「流れ星にそう願ったのか?」 「……うん。でもちゃんと目がさめて、やっぱり朝が来ちゃったなぁって思ったら、来てなかった。外は明るいのに、時計が止まってるの」 「は???」 そこで自分の腕時計を見た。 あっけにとられて、口が開いたままになっちまった。 ……止まっている。 秒針が動いてねえ。 「マジか……嘘だろ……」 「だから、だからね、どうしよう、どうしようって思って、とりあえずおうちを出たんだよ。誰か起きてるかもしれないと思って。でも誰も起きてなくて、誰にも会えなくて、泣きたくなってたらおにいさんが歩いてるのが見えたから」 「それで俺に声をかけたのか」 「うん。……ねえ。おにいさんは『朝が来ないでほしい』ってお願いした?」 「例の流星群……ああ、流れ星な。それはしてねえよ」 「―――してないの???」 「ああ。だが。俺は今日、目が覚めた時に思ったよ。『新しい朝なんて来なくていい』ってな」 隣の爺のラジオ体操を聞いた後、確かにそう思って。 願ったなんて覚えはねえけど。 あれは確かに、俺の正直な願望だった。 「おにいさんもお願いしたの……? 神様に……?」 「いや、俺は別に。神とかろくに信じちゃいねえし。ただ、そう思っただけだ」 「そっか……」 でも、確かにこの子の言うとおりだった。 朝の公園でサラリーマン風の男と少女が話をしてたら絶対誰かに見られるだろ。 でも道にも誰も通りはしないし、車も来なかった。 チュンチュンうるせえ雀もいなかった。 ないないづくしだ。 「参ったなこりゃ……。お星さまだか、いるのかいねえのかも分からん神様だか知らねえが、俺らの願いをかなえてくれちまったってことかな」 「そうだと思うよね。おにいさん、どうしたらいいと思う?」 「どうした、っつってもなぁ……」 この子はいじめっ子のいる学校に行かなくていい。 俺はまいんちクソみたいにサビ残する会社に行かなくていい。 ……「お前は役立たずのクズだ」と罵る、上司と顔を合わせなくていい。
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