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PINK
世の中では自分の想像を超える出来事が割とよく起こる。その度に自らの浅はかな考えにがっかりしてきた。しかし、この現実主義な性格を変えることは出来ない。だって、これが私が生まれ持った軸だから。
昔から幽霊とか妖怪とか、そういった類のものは信じていなかった。見える人からすればいるのかもしれないが、私はこれっぽっちも見る素質がない。だからいくら存在すると言われても、賛同することは出来なかった。
存在を否定したい訳ではない。ただ、私は信じていない、それだけの話。
「ズルッ……ズルルル」
なんだこれは。
目の前には絡みあう男女の姿。一見すると、そういう場面の最中に見えるが、だいぶ様子がおかしい。覆いかぶさっている男は、下に敷かれた少女の首筋に噛み付いてなにやら水っぽい音を立てている。
いや、正直に言うと、私はこの存在が何かを知っている。まさか、こんな所で本物と遭遇するとは思っていなかったが。
それを認識してしまうと、途端につんと鉄の匂いが鼻腔を突いた。少女の柔らかい肉を引き裂いた二本の牙が、嫌な音を立てて引き抜かれる。傷跡から鮮やかな赤色が溢れ出す。
「いっ……嫌だっ……やめて」
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