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細くてしなやかな指が七世の顎をとらえる。僅かに触れている指先だけで、逃げようという意志が削がれていった。確かな意識とは裏腹に、身体はみるみる目の前の妖者に対して従順になっていく。
「ずっと気になっていたんだ、祓い屋の血は。いい匂いがして、あまくて、口に入れると脳味噌が溶けそうになるらしいよ」
「……なんだか危ない薬みたいですね」
「そうそう、僕らはみんなを虜には出来るけれど、僕達自身が何かに夢中になったりすることはないんだ。執着心が人より薄くてね」
流れる血管をなぞるように、井空の指先は首筋を行ったり来たりしている。品定めをされているような目だ。居心地が悪くて目線を逸らすと、いきなり強く首を両手で掴まれた。
よそ見したことを責めるかのように、顔を真っ直ぐに固定される。暫く視線を交わした後、井空の顔が七世の首筋に埋められた。
ああ、今度はこちらが哀れな小動物になる番か。先ほど見捨てようとしたのが悪かったのだろうか。
「たまには誰かに夢中になって、中毒みたいに何かを欲しがってみたりしたいよね」
「吸血鬼って、変態なの?」
「じゃあ確かめてみようか」
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