43人が本棚に入れています
本棚に追加
鈴木が男と付き合えることは知っている。つまりは自分と同類だ。
となれば、堂々とアプローチすることに何ら差し障りはない。
ぐいぐい攻め込みたいところだが、斗真の記憶の鈴木は、大人しく控えめ、前を譲って三歩後ろを歩くような人物だった。
─あまり強引に行ったら引かれるかも。
失恋したばかりだからか、慎重に思考を巡らせる。
かと言って、記憶にも残らないような薄っぺらいアプローチも考えものだ。
結局、どんなに慎重に考えたところで再会を果たさなければ始まらない。
となると、偶然を装い鈴木に近付く他はないだろう。
斗真は仕事の合間に鈴木の働くマンパワーネットワーク本社の所在地を確認し、その近辺で立ち寄れるような場所がないか確認した。
目的もなく鈴木の前に現れて、不審がられてしまったら、偶然を装っている場合じゃなくなるだろう。
店でもカフェでも、言い訳に使えそうな所であればどこでもよかった。
昼休みが終わる頃には大体の行動が決まった。
そうなれば思い立ったが吉日だ。
今までは尻込みしていたであろうことも、今はこの容姿、この甘いマスクで積極的に臨むことができる。
簡単にはばらせない顔の秘密は斗真の心を奮い立たせる起爆剤として良い働きをしていた。
仕事を終えて会社の最寄り駅から一駅下ればマンパワーネットワークの本社がある。
名刺を確認しながら鈴木の勤めるオフィスビルへと足早に向かった。
目的地へと到着しが、マンパワーネットワークは分かりにくい場所にあった。
「ここが……」
大きなビルに囲まれた小さい古いオフィスビル。
社長である加賀美の派手な外見とはそぐわないこのビルの3階にオフィスがある。
イメージ的にはもっと洗練された場所にオフィスを構えているものだと思っていただけに意外だった。
「鈴木さん、まだいるかな」
少しの間この古い建物に目を奪われたが、それより今は鈴木だ。
斗真はビルの出入口がよく見えるカフェに移動した。
カフェについては下調べ済みだった。
アイスコーヒーを頼み、窓際の席に腰を下ろした。
時刻はもう18時を回っている。
計画通り、鈴木に会えるだろうか。
こっちは急いで定時上がりがで来たが、電車や徒歩での移動中に鈴木が帰宅の途についたとしたら会うのは難しい。
「適当に切り上げるしかない……か」
思わず独り言が溢れる。
最初のコメントを投稿しよう!