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経理部で働く女性職員の契約が年内いっぱいで満了になり、後の更新はしないということなのでその穴埋めの為に派遣会社であるマンパワーネットワークの営業担当と社長が来ることになっていた。
これまでその担当と一緒に社長まで来社したことはなかったのだが、マンパワーネットワークで社長の交代があった為、挨拶に伺いたいということだった。
向こうの社長のことはさておき、斗真も契約希望者との面談に同席する為どんな人材が希望を出しているのか、そっちの方が気になった。
「感じいい人に当たるといいなぁ」
電車を降りて社へ徒歩で向かいながら斗真がぼそりと呟く。
何より良い人材を確保したい。
仕事をする上での知識はもちろん必要不可欠だが、業務を円滑に遂行するにはコミュニケーション力も大切だ。
─ただでさえ経理部は曲者揃いなんだからさ。
斗真はこの経理部所属の渋澤という男に恋で敗れたばかりだった。
これがまた曲者で。
斗真はこの男からどれだけ嫌な目に合わされてきたか、片手じゃ数えきれないほどだ。
だがその失恋から今日まで、およそ二月も経過した。
少なからず時間が解決してくれる部分もあり失恋の悔しさや悲しみは少しずつ癒えてきている。
しかし斗真の脳は渋澤が危険人物だと警告する信号を出し続けていた。
派遣社員と自分の失恋には全く何の関係もないのだが、そこに渋澤がいる限り、明るくコミュ力の高いメンタル強な人材を!と思わずにはいられない。
渋澤のことを思い浮かべると、明るい世界がじわじわと闇に浸食されていくように斗真の頭が渋澤で埋め尽くされていく。
それくらい、渋澤には嫌なパワーがある。
─気力で負けてる場合じゃない。
斗真は渋澤を思いだし、ぶるぶると頭を振って脳裏からその姿を追い出した。
この時はいつもと変わらない本来の自分らしい地味な一日が始まると思っていたのだが、この後、斗真は思いもよらない再会を果たすこととなる。
斗真の勤務先は婦人服販売を手掛ける大手の上場会社だ。
斗真はその本社人事部で主に従業員の能力開発を目的とした研修のスケジューリングを担当している。
それから採用における面接の仕事を現在学んでいる最中でもある。
それに加え年末年始はセールや初売りなどで人手が必要になるので、本社職員に応援スタッフとしての派遣も要請しなければならない。
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