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恋心にも似た淡い感情がほわっと暖かな風を生み、胸の中に流れ込む。
失恋したばかりだというのに、否失恋したからこそと言うべきだろうか。
その淡い感情は瞬く間に斗真の心を占領した。
地味な鈴木の顔は、よく見れば小振りなパーツが可愛らしく、雰囲気が失恋した笹本に似ている。
実際は、笹本の内面は意外と尖っていて、鈴木と似ているのはちょっとした見た目だけだが。
斗真はぼんやりと鈴木に笹本の面影を重ねながら、さり気無く鈴木を観察した。
─相変わらず可愛い。控えめなしゃべり方も変わっていない。
今、付き合っている人はいるのだろうか。
そんなことを考えて暫し鈴木に意識を奪われていたが、不意に強い視線を感じて視線をそちらへ向けた。
すると社長の加賀美と目が合った。
加賀美は斗真じっと食い入るように見詰めている。
ただ見られているだけなのに、整った顔でじっと見詰められるとやけに迫力がある。
形のよいやや切れ長の目から放出される眼力という圧を物凄く感じた。
─やばい。仕事してないと思われたらまずいよな……。
自分のせいで優良な人材を確保できなかったら──、斗真はそう考えて即座に視線を女性へと戻した。
面接はおよそ25分程で終了した。
恐らく彼女は採用になるだろう。
鈴木の表情も手応えがあったからなのか、幾分笑顔が増えた気がする。
斗真は鈴木の笑顔を見ながら自分が大学時代の後輩であることを伝えるべきか否か迷っていた。
しかし伝えるとなると整形手術を受けたことまで吐露しなくてはならないし、それに至った経緯まで説明するはめになるだろう。
そんなことを考えている間にも、この商談は終わりを迎えようとしていた。
鈴木と加賀美、そして面接にきた女性が椅子から立ち上がる。
マンパワーネットワークとは繋がりがあるのだから、その気になれば後でいくらでも鈴木に連絡をとることはできる。
しかし今ここで別れてしまえばそれまでという気がしないでもない。
ここで再会できたのもきっと何かの縁。
もしかすると、もしかする展開が待ち受けているかもしれない。
「では結果は追ってご連絡させていただきます」
「ありがとうございました」
「どうぞ今後とも宜しくお願い致します」
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