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『それとも、やっぱり私が行った方がいい? 男の子も別に客になれるし、場合によってはたぶん……、戻ったときに相澤くんが痛くなければいいけど……』
「……っ、行くよ」
更に続く話を終わらせるために、僕は冴島さんの願いを聞き入れることにした。罪悪感を感じながらの会話を続けたくなかっただけの、卑怯な自己犠牲だ。
『そっか、ありがとう』
電話越しに、心の底から感謝したような声が聞こえる。
『それじゃ、あとでね』
そう言って切れた電話に、僕は何も言えなかったし、きっと彼女の話してくれた“過去”が本当なのだとしたら、僕には彼女のことについてどうこう言う資格なんてないのだから。
「おっ、しぃちゃん。今日は……なんか初々しくない? いいねぇ、今日はそういうシチュエーションでいくんだ。一緒に楽しもうぜ?」
下卑た笑みを浮かべるおじさんが近付いてくるのを、僕はただ受け入れて……。
* * * * * * *
「今日もありがとね、相澤くん」
「うん」
「なんか、男の子の身体に慣れてきちゃった。もうこのままでもいいかも……なんて♪」
冗談めかして笑う冴島さんの言葉が半ば本気になり始めたのは、たぶん半年くらい前のこと。薬を貰ってすぐに渡しに行って、そのまま逆転した身体で恋人らしいことをするのが、いつもの流れ。
そうして、倦怠感と身体の震えが止まらない僕を見ていたずらっぽく笑う冴島さんを見上げる――そんな日常に、どうしてかもう違和感がなくなってきている。
「それじゃ、またよろしく♪」
そう言って冴島家まで送ってくれたあと、もうすっかり男の子になった冴島さんが歩き去るのをただ見送る。また会いたい、と胸を熱くしてしまいながら。
もしかしたら、僕ももう……?
贖罪の夢から目覚める日は、今のところ来ていない。
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