Case4 思春期の子供達に悩む主婦43歳

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『その場所がいわゆる過疎化モデル地区みたいな場所でして。 昔からの診療所しか無かったんですが、そこの先生も高齢で診療所を閉じてしまって。 それでみな、大きな街まで車で1時間以上かけて行くんです。 それを見ていて、こういうところこそ医者が必要なのだと思ったんです』 私はそれを聞いて、正直私はその理由から医者になることに賛成できなかった。 少しの間とはいえ、ずっと昔とはいえ一時は看護師として働き、医師のハードさは目の前で見てきた。 辞めてからも、やはり医師や看護師に関わるニュースは気になってしまう。 過疎化での医師の問題は急務だが、簡単にだからそこにいけば良いという問題でもないのだ。 「イチロウ君はすぐそういう場所で働こうと思ってる?」 『はい』 「色々な人達からそういう場所での勤務について聞いたことは?」 『あります。皆割と否定的ですね』 「これは、老婆心からというか、私の意見として聞いて欲しいんだけど」 はい、という少し強ばった声が返って来た。 『出来ればすぐそういう場所に行かずに、ある程度経験をしておく方が良いと思うの。 何でかというと、過疎地はそれこそどんな病状の人でも来るから。 それこそ出産から骨折まで。 一つの科に専念できない分、色々と知識や技術が深く得にくい。 でも幅広い知識は必要になる。 それに、思ったより同じ治療ばかりすることが多いから、新しい経験や技能や情報を得にくい。 その分相当な努力をしないとあっという間に医療の進歩に置いていかれるわ』 「それは、理解してるつもりなんですが」 『だから、まずは救急救命を力入れている場所に行くと良いと思うの』 「いわゆるドクターヘリとかにも対応しているとこですね?」 『そう。それだと過疎地との連携も勉強できるし、もの凄い経験が出来ると思う。 けど、恐ろしいほどに心身共にハードだけど』 答えが返ってこない。 おそらく考えているのだろう。 しばらくして声がした。 『救急救命の分野は興味はあったんです。 もう少し情報を収集してみます』 「ごめんなさい偉そうに。 素人の一意見だから」 苦笑いでそういうと、あの、と呼びかけられる。
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