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「『宿り木カフェ』、実は怪しいと思いつつ始めたけど、やって良かったわ。
やっぱり何か動いてみないとわからないものね」
それは本当に思えた。
ネットで男性と話す、それだけ聞けば怪しさしかない。
いい歳してなんてことを始めたと思ったけど、あの頃は本当に何でも良いからすがりたかったのだ。
よく考えれば、たまたま悪いものに引っかからなかっただけかもしれないけれど。
『そうですね、僕もこれを始める時は、ずっと怒られ続けるとかならどうしようかと思ってました』
パソコン画面に残り時間がわずかだと静かに注意表示が出ている。
「ありがとう。
せっかくだから少しだけ前向きに看護師の勉強始めて見るわ。
イチロウ君も頑張って」
『少しだけって言うのずるいですよ。
はい、頑張ります。
もし医者と看護師としてお会いすることがあれば、よろしくお願いします』
そんなこと、あり得ないのはお互いわかっているけれど、彼なりのエールだとわかった。
「えぇ、元気でね」
『はい、失礼します』
少しだけ時間を残し、通話は終了した。
ヘッドフォンを置き、画面には『ご利用ありがとうございました。よろしければアンケートにご協力下さい』との表示。
私は笑ってアンケートのページに行くボタンをクリックした。
彼も今は希望に満ちていても、現実の凄まじさに心折れる日がくるかもしれない。
いや、彼は幼い頃に味わった大きな壁を今も必至に登っている。
きっと簡単に折れるなんて事は無いのだろう。
素晴らしい医師になって欲しいと、私はアンケートに書き込んだ。
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