三、悔恨に寄せるセレナーデ

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 早すぎだ。  思わず舌打ちしたくなる。  すんでのところで食い止めて、それでも苦渋の表情は露骨に表明した。  広いとは言えない板の間に向かい合い二列に並ぶ議政官の面々も、この一瞬で驚愕の色に染まっていた。  さすがの経験値で意識を立て直し、それでも困惑は消し去れない様子だ。一段高い畳に座った“皇帝と騙ってきた人物”に強い視線を向けている。その強さは、逆に、自分達を納得させろと元凶たる当人にすがりついているようにも見える。 「帝を支えるは我々に与えられた尊き役目であり、私共は誇りを以て務めております。それを踏みにじられたことを、どうお考えか」  代表として俺は口を開き、それらしい口上で偽帝に迫った。  ここ豊秋(とよあき)国では、皇帝を選定するのは神であり、践祚(せんそ)は最大最高の神事と言える。そこに偽りを挟み込むことなど犯罪どころの騒ぎではない。  そして俺は、歳は四十を過ぎたところで若輩ではあったが、議政官の長たる立場だ。それを支える位階と家柄があるとはいえ、偽帝だと知りながら秘密裏に加担していたなどと、僅かにでも覚られる訳にはいかない。     
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