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無茶をしているという自覚はなかった。が、人一人を背負ったままほとんど眠らず昼夜を通して歩き続け、宿場町で補給だけして進み続けるという強行軍に、しまいには身体のほうが悲鳴を上げた。何日目かわからなくなった朝日を記憶の最後に、気がついたときは街道の脇にうずくまって気を失っていたのだ。何時間をロスしたのかはわからない。水だけ飲んで慌ててまた歩き出し、一度か二度の夜を越えたあたりでまた意識が吹っ飛んだ。今度は街道のど真ん中で歩いたままぶっ倒れたらしく、倒れた際に打ったと思われる額と頬に痣ができていた。
失ったのが意識だけならまだ良かった。そこからどうにか宿場町にたどり着き、食料を買おうとしたが、財布が見つからない。詰め込んであったはずの空間だけが、ぽっかりと空いていた。
疲れでぼんやりする頭の中が、真っ白になる。一年分の定額給与、東の果てオルセンキアまでの路銀を、いきなり、全て失った。
鞄の蓋はきちんと閉じていたから、落としたとは考えにくい。盗まれたのだ。コソ泥ごときに。鞄の財布を抜き取られても気づかない状態だったということは、プライムに何をされてもわからなかったということだ。俺の命を含めて、財布以外が無事だったことをむしろ感謝すべきかもしれない。
疲れ切った身体にこのダメージはデカすぎた。しばらく道端にへたり込んで、ぐったりと沈み込む。
帝都まで引き返すか。いや、戻るにしても食料は足りなくなる。さらに、戻ったところで給料の前借りはこれ以上できそうにない。他に金が無心できる当てもなかった。旅を諦めるつもりがないなら、帝都に戻る選択肢はない。ならば。
ついに俺は観念し、この町で宿をとることにした。
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