第1章 父と呼ばれる男

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「ヤスー! 夕飯だからこっちいらっしゃーい」母さんの呼ぶ声が聞こえた。 僕の名前は勝呂和人(スグロヤスト)母さんからはヤスと呼ばれている。 母さんと僕は二人暮らしで、母さんの仕事は夜になると綺麗にお化粧をして出て行っては朝帰ってくるような感じだった。 2DKのアパートで◯◯荘みたいな古い感じではなく、◯◯ハイツといった様な感じのアパートですごい裕福って訳ではないけど、生活に不自由を感じることもなく幸せに暮らしている。 ある日、夕飯を食べながら母さんとテレビを見ていると、バラエティ番組の芸人の一言が僕と母さんにそれぞれ違う意味を感じさせる。 「僕なんて、こうやってテレビ出させてもらえる様なってから親父が僕の前に出てきましたからね。偉そうに小遣いせびってくるんですよ」 芸人は無責任な父を笑い話にしていた。 母さんは父が絡んだこの手の話が苦手だということを僕は子供ながらに薄々理解していたが、知りたい気持ちを抑えきれず小さい頃は何度もその幼さと純粋無垢な心を武器に母さんを問い正していた。 「なんで僕にはお父さんがいないの?」 今思えばこの言葉がどんなに母さんを苦しめたことだろう。
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