第1章 父と呼ばれる男

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「お父さんはお仕事で海外に行ってるのよ。そのうち帰ってくるわよ」と母さんは決まって同じ言葉を繰り返し僕に気を使っていた。 僕が物心ついた時にはすでに父は家にいなくて一度もその姿を見たことはないし、思い出の写真達がダイニングに飾ってあるが、その中には僕がまだ一度も見たことのない母さんが父と呼ぶ男が写っている写真が一枚ある。 男は赤い靴に濃い青色のとっても短いパンツに白のランニングシャツ、シャツの真ん中にはテレビのCMとかで見た事ある(◯◯生命)って会社の名前が書いてある。 写真には男と同じユニフォームを着た男性が四人並び、片足が膝立ちになるような格好で首からは銀色のメダルを下げている。 あとは僕と母さんが二人での写真が飾ってあり、家族全員で撮った写真は一枚も無かった。 けれど、母さんは仕事をしながらも僕の為に沢山時間を使ってくれた。 僕が来なくてもいいと言っても学校の行事にはちゃんと参加してくれたし、仕事の無い日には遊園地や公園にも連れていってくれ、キャッチボールやかけっこまでしてくれた。 だから今更になって父が帰って来たところでどうすればいいのかわからないし、 最初からいないものだから帰ってきても困ってしまうというのが僕の気持ちだった。 それよりも一人で僕を育ててくれている母さんを父の事で責める様なことはやめようと中学生になる頃には心に強く決めていた。 何年かが経ち、僕は中学生になった。 部活は陸上部に入り毎日の様にグラウンドで必死に走り込んでは汗を流していた。 そして何より、中学生になって掛け替えのない友人となるこいつに出会った。
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