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【00:40】
残り時間は40分。
しかしナビはあと30分で到着するという。
車の運転も、勘を取り戻してきた。
いざ。
俺は今度こそ一陣の風になる覚悟を決める。
が、微風。
渋滞のため微風。
時々、無風。
まるで春のそよ風の如し。
ふざけるな。
俺は急いでるんだよッ。
他の車たちよ。
お前ら全員、走る気があるのかッ。
エリートの経験から告げるッ。
前進しなければ、風は吹かないのだッ。
俺はナビの音声認識をオンにする。
「へい、ナビ。迂回路を設定してくれ」
《はい。迂回路を設定します》
ナビが応じる。
すぐに、
《迂回路を設定しました。次の交差点を左折してください》
と、ナビは優秀である。
俺はナビに従い、ウインカーを左に。
すると、
ボンネットが開いた。
「なぜにッ。せめて、ワイパーだろッ」
《はい。せめてワイパーを動かします》
ナビは忠実である。
「止めなさいッ。つうか、なんでナビまで『せめて』とか言ってんだよッ。『せめて』ってなんだッ。『せめて』ってッ」
《はい。『せめて』は副詞です》
ナビは優秀である。
「…………そうなんだけどさぁ……」
《意味がわかりません。もう一度お願いします》
「……………………」
俺は車を停めて、ボンネットを閉めたのだった。
ったく。
俺はため息をついて運転席に戻ろうとする。
そうしてドアに触った瞬間。
なんだろう?
脳みそが、キーンという甲高い痛みと共に歪んだような感覚があった。
俺はとっさに頭をおさえる。
深呼吸をすれば、すぐに頭の異常は収まったが、気味の悪い感覚は残ったままだ。
考えてみれば、最初からおかしかったんだ。
エリートの俺が寝坊なんて初歩的なミスをするなんて、そこからしておかしかった。
何かがおかしい。
そうは思うが、その正体はわからない。
考えていても仕方ないと、すぐに頭を切り替えた。
とにかく今は商談が優先だ。
俺は車に乗り込む。
シートに持たれると、瞬間に再び頭がキーンとした。
やはり、おかしい。
そんな不安を抱えながらも、俺は再び車を走らせた。
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