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【01:00】
まどろみから抜け出し、目を開ければ、煌々とした日がカーテンの隙間から差し込んでいる。
……俺は、……誰だ?
少し目眩がする中で、ぼやけた頭を働かせていく。
そうか。俺はサラリーマン。
やり手のエリートサラリーマンだったっけ。
そう思い出し、俺は大きく背伸びをして、今日の大事な商談のことを考えた。
今日の仕事は忙しくなるぜ。
と、俺は枕元に置いてあったスマホを開く。
そこで、その事実は判明した。
あ、ヤベッ。
……これ、遅刻だ……。
時刻は朝の7時45分。
1時間後の8時45分には数十億の利益がかかった大事な商談の約束がある。
先方まで電車を使うとすると、ドア トゥ ドアで1時間強。ギリでアウトだ。
準備の時間も考えたら、もう完全にアウトだ。
つまり、間に合わない時間なのだ。
しかし、俺はあわてなかった。
なぜなら、先に言った通りだ。
俺はどんな難しい仕事も見事成功に導いてきた超エリートサラリーマンなのである。
だから、俺はこの状況を知っても、『ああ、もうあと1時間しかないッ』などとは思わない。
取り乱さない。
時計を二度見などしない。
むしろ、『なんだ。まだ1時間もあるじゃないか』と、余裕を見せる。
俺は冷静沈着。
落ち着いて寝癖を直す。
落ち着いてシャツをまとい、タイを締める。
落ち着いて高級スーツのジャケットを履き、
落ち着いてパンツに袖を通す。
どこまでも落ち着いて、靴下を手に装着したら、さぁ、準備は万端だ。
イタリア製のブランド靴を脇に大事に抱え、愛機であるハイスペックの最新型ノートパソコンの入った鞄を足に履いて、いざ、俺はマンションの部屋を出た。
それから俺は余裕の笑みを浮かべて、実に冷静なリズムでもって、エレベーターのボタンを連打した。
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