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達磨様に会いに行こう
「ねえ、達磨様って知ってる?」
同じ大学の同期である喜屋杏子にそう訊かれ、大柳朱里は首を捻った。
「達磨様?」
杏子の言葉を繰り返しながら、朱里は、教壇で講義を行っている立見教授の姿を伺う。
今は民俗学の講義の最中だ。立見教授は、私語や居眠りにはすこぶる煩く、下手をすると即、単位を落とされてしまう。
隣の席の杏子もそれを知っているはずなのに、唐突にそんな質問をしてきた。何を考えているのだろうと朱里は訝る。
「そう。達磨様」
杏子は声をひそめ、再びその名詞を口に出す。杏子の細い目が、薄っすらと輝いているように見える。まるでこっそりと怪談話を行う女子高生のようだ。
「知らないよ。テレビの話?」
「ううん。噂で聞いたの。隣の県の山奥に、達磨様を祭っている村があるって」
朱里は再度、前方の教壇に目を移す。立見教授は論説に夢中で、こちらの私語には注意を払っていなかった。
杏子の方に顔を向けた。お世辞にも綺麗とは言いがたい、杏子の顔を見ながら朱里は訊く。
「その達磨様って何?」
杏子はさらに声を落とし、答えた。
「四肢を切り落とされた若い女性なんだって」
「え?」
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