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「活樹が心配するといけないから」
私は立ち上がった。
「そうだな、俺はもう少しここにいるよ」と真人が返す。まるであの日と立場が逆転したみたいに。
じゃあ私も、と今の私は言えなかった。
十二年越しにあの時、先に帰った真人の気持ちがわかった。
これ以上一緒にいる資格がなかったんだ。
あの時の真人と今の私には。
「じゃあ元気でね」
そう言うと、真人が少し寂し気な表情を浮かべた気がした。
「あぁ、気を付けて帰れよ」
ぶっきらぼうにそう言ったのはいつも通りだったけど。
立ち上がって真人に背を向けて歩き出す。
最後に振り返って、ずっと聞きたかった事を、なるべく冗談ぽく聞いてみた。
「そういえばさぁ、最後、あの時、私に何て言ったの?」
少し間が空いてから、取り繕うように真人は答えた。
「そんな十何年も前のこと覚えてるわけないだろ」
「そうだよね、じゃあさ……、あの頃、私の事好きだった?」
こんな事、今さら聞いても仕方ないのに。
何かが変わる訳でもない。だけどどうしても聞かずには居られなかった。
真人を見ると、じっとこっちを見つめていた。
真人の口が開く。
「そんなわけないだろ」
と笑いながら、右の頬をそっと触った。
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