一.

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「システムキッチンなんぞ、どれも同じだ。うちの新製品は他のとはまったく違うんだ。さっきも言ったろう、未来をぐっと引き寄せた製品だと」 「ミシンなんて時代遅れだよ」S社の男はまだ若かった。相手が自分より年上なのが、悔しさをいっそう燃え立たせたようだ。「家でミシンを使うなんて今じゃ廃れてる。そんなことをしなくても、できあがったものがいくらでもよそで買えるじゃないか」 「おい、おまえはなんにもわかっちゃいない」男は詰め寄った。 「近頃の若い連中は、みんな流行り廃りでかたづけやがる。おれのおむつはおふくろがミシンで縫ったんだ。ところで、おまえらはどうだ? どうせ紙おむつで済ませたんだろう。知ってるか? 紙おむつはおつむの成長に少々影響するらしいぞ」 「知るもんか、そんなこと」あからさまな挑発を受けて、S社の若い男はむっとなった。「あんたの家のキッチンだって、包丁やらなにやらがごちゃまぜになっているんじゃ? そんなひどいところで、おいしい料理なんかできっこない。ステーキを焼いても、きっとサンダルの底みたいな味がするに決まってるさ」 「ふざけやがって! ミシンは家庭の大事な道具だ!」 「キッチンはもっと大事だ! ミシンなんて必要ない!」  二人の男は敵意に満ちた視線を交わし合っていたが、やがて、     
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