アイデンティティ

5/7
前へ
/96ページ
次へ
「間宮くん、記録して」 「はいはーい。どれぐらいの数値かなあ。いくらマルチなアスリートさんでも、パワーでは男に敵わないでしょ……」 握力計の数値を見て、彼は絶句した。 「えっ、ろ、60.02kg……って……!?」 左も測り、同じく男子並みの数値を叩き出す私に、間宮さんは呆然とする。 「末次さんは長い間、格闘技の稽古をされてきました。そして現在もトレーニングを積み、鍛錬を怠りません。前腕部を形成する筋肉群が発達しているため、これほどのパワーが出るのです」 尾崎さんの説明に、間宮くんは一応頷くが、 「……にしても、力ありすぎですよ。ちなみに、ベンチプレスはどれくらい?」 「調子が良ければ80ぐらいかな」 「うそお!」 彼は大げさに驚き、後ずさりした。化け物でも見るような顔をしている。 「ちょっと、間宮くん。驚きすぎだよ」 尾崎さんは私に気遣うが、彼はお構いなしに怯えてみせる。
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

119人が本棚に入れています
本棚に追加