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「それで? お前はなぜ俺についてきた?」
「きらきら」
困った。会話にならない。
「お前はそれしか言えんのか」
「……」
無事に湯殿へ行けたことは良かったが、課題が山積みだ。
そして俺は昼餉を食しそびれていたことを思い出す。
「お前、昼餉は済んでいるのか?」
「……?」
言葉が伝わらない。
「……出かけるぞ」
「お前、家は?」
「……」
「親は?」
「……」
「名は?」
「……」
こんびにえんすすとあに向かいながら様々なことを聞いてみる。
しかし何も話したくないのか、話すことが出来ないのかそいつはずっと下を向いて黙っていた。
「何を食いたい?」
どうせ何も話さないと思って適当にかごの中へ入れる。
「……おむらいす」
驚いた。こいつ、話せたのか。
「なんだ。話せるんじゃないか」
相変わらず下を向いたままのそいつの頭に手を伸ばすとそいつはビクリと大きく体を震わせた。
「……悪かったな」
自然と口から出た言葉に何か違和感を抱きながらオムライスをかごの中に入れた。
その違和感は家路についたときに気が付いた。
「いや、俺が謝る必要あったか?」
無い。無かったに決まっている。俺は別に悪いことをしたわけではない。
次々と新しい疑問が湧きだす。
「そもそも何故俺がこんな奴の世話なんか……。というかこいつは結局何者なのだ」
ぶつぶつと愚痴をこぼしているとインターホンが鳴り、扉を開ける。
「やぁ、元気?? 元気そうで何よりだよ! それで今日はね……」
扉を閉める。最悪だ。
「開けて~!! 李苑!」
とっさに俺はそいつを家の中に入れた。
「大声で俺の名を呼ぶな」
「そんな怖い顔するなって! 俺たちの仲だろ?」
「ただの腐れ縁だ。」
「お? 早速人間の子拾ったのか」
彼の目線の先には俺の部屋から興味深そうに顔を覗かせている幼子の姿。
「いいや、勝手についてきたんだ」
「やるね~、李苑ちゃん。いくら李苑ちゃんでも一人は寂しかったか」
「話を聞け。それで? 何の用だ?」
彼の話によれば俺はあと数年は上界に戻ることが出来ないらしい。
「それでお前が俺のお目付け役か?」
「そんな堅苦しいものじゃねぇよ。今まで通り親友として接してくれ」
「親友ではないけどな」
先が思いやられる。
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