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「なるほどね。それでこの子を育てるの?」 「誰も育てるなど言っていない。言葉も通じん。」 用は済んだはずなのに帰る気配が全くないこいつに俺は、不本意ではあるが”ニンゲン”について相談することにした。隣では、静かにオムライスを食べる”ニンゲン”。 「言葉が通じないのは当たり前だろう? 下界には下界の言葉がある。」 「下界の言葉? そんなもの院では習わなかったぞ。」 そう言うと彼は小さな四角いものを取り出し何やら触りだした。 「湯殿はこの世界では”風呂”という。ちなみに厠は”トイレ”だ」 「昼餉も通じんかったぞ」 「昼餉は”昼食”とか”昼ごはん”と言うらしいな」 こいつは何故そんなことを知っているのだ。 「昼ごはんおいしい???」 見知らぬ者に話しかけられ、驚いた顔をする”ニンゲン”だが、その言葉に小さく頷く。 「ほらな。この世界の言葉に合わせれば言葉は通じる。」 得意げな顔にとても腹が立つ。舌打ちをする俺に構う様子はない。 「あ、俺は李苑の親友の”琥珀”。よろしくな。君の名前は?」 「……」 相変わらず話そうとしない”ニンゲン”。 「……名前無いのかな」 「そんな奴いるのか」 「この世界ではいるらしいよ。李苑が付けてあげなよ」 「は? 何故俺がそんなことしなければならない? こいつは元居た場所へ戻す」 ”ニンゲン”なんて育てても俺に得はない。 ただでさえ俺は早く上界に帰りたいってのに、こんなものに構ってられるか。 「その子を育てきったら上界に帰れるってよ」 「つくなら、もう少しまともな嘘をつけ。」 「つれないなぁ。じゃあそういう風に李苑の父上に言っておくよ。」 「それより俺を早く上界へ帰らせてくれ」 「こっちの時間であと100年くらいは無理だな」 「ひゃっ……!? そんなわけあるか!」 「気にするな。下界の100年なんてあっという間だ。」 そう言いながら琥珀は再び四角いものを触り始める。 「下界の一年は365日らしい」 「365日だと!?」 「つまり100年下界にいても俺らは年をとらない。そして人間は100年も生きられないらしいから、まぁ……育ててみたらどうだ。」 「……やってられるか」 俺は再び外へ出た。 先が思いやられる。
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