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「君、名前無いの?」
「……」
曖昧に頷く彼女。
「無いわけではないのか」
「……」
一向に話さない彼女はずっと俯いたままだった。
「これは困った……。」
李苑は小さなころから自分の利益になることしかやってこなかった。そんな李苑のもとに人間の子どもがやってくるとは。俺が言ったことではあるが、とてもではないが李苑に育てられるとは思えない。
李苑の父上があいつを下界に行かせた理由は大方想像できる。確かに今のあいつでは李苑の父上の後を継ぐことは不可能に近い。
「いくつ?」
この質問に彼女は首を傾げながら両手を広げた。
「十歳?」
「……」
これも曖昧に頷く少女。
「年も分からない……か。」
これは厄介だ。李苑の父上のお考えが俺の想像通りならば、この子を育てることは、いいきっかけになると思うのだけれど。
「おい、琥珀」
「あ、おかえり。李苑」
相変わらずの仏頂面ではあるが何かを決意した顔をしていた。
「どうしたんだ? そんな難しい顔して」
「そいつを育てようと思う」
「……え?」
あまりに唐突だったので、一瞬何を言っているのかがわからなかった。
「なんだ、お前から言っておいて不満があるのか?」
「な、無いけど急にどうしたんだ?」
しばらくの沈黙の後、李苑は口を開いた。
「……ただの暇つぶしだ」
目を逸らしてそう言う姿で俺は思い出した。
李苑は口や態度は悪いが、根は優しい奴なのだ。
「そうか。何かあったら頼れよ。隣の家にいるから」
思わず零れてしまいそうな笑みを殺しながら俺は李苑の家を出た。
先が楽しみだ。
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