第一章

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会社の最寄駅に近づいてくるとだんだんと憂鬱な気持ちになっていく。きっと今日の会議でも、散々駄目出しを受けるのだろう。 今日のために準備したプレゼンテーションも全て水の泡になるに違いない。そう思うと今すぐに電車を降りて来た道を戻りたかった。 しかしながら、佳代にはそんなことできなかった。そんな度胸などないのだ。 いつも通り電車を降りて改札を抜ける。歩いて五分ほど歩くとオフィス街の一角に立つビルが佳代の勤める化粧品会社だ。 ビルの中に入ると途端に女性らしい香りが広がる。普通に嗅げば良い香りなのだろうが、佳代にとってこの香りは更に気分を落ち込ませる要因の一つとなっていた。 佳代は化粧品開発部という部署の企画チームに所属している。企画という名前の通り、新しい化粧品はどのようなものがいいかという案を作り出していくチームだ。佳代は四月からこのチームに配属されている。 入社八年目となった佳代に直属の上司であるチーフの深山奈央子からは、良いプレゼンテーションができれば主任へ昇格させると言われていた。 初めのうちは意欲的に取り組んでいた。駄目出しを受けても、次は大丈夫かもしれないと希望を持って一生懸命頑張っていた。 しかし、現実は違った。 半年経っても駄目出しを受けるばかりで、一向に受け入れられそうになかったのだ。 そして佳代は、自分の知らないところで起きていた現実を目の当たりにした。 佳代がトイレに入っている時だった。同じチームの後輩二人が手を洗いながら話していた。 「本条さん、本当に鈍いよね」 「それそれ。深山チーフが弄んでるの気付かないのかな?」 二人は佳代のことを馬鹿にするように笑っていた。もちろん、佳代が同じ空間にいることなど知らないはずだ。 佳代はトイレから出ることができなかった。心臓がどくんどくんと大きな音を立てて鳴り、息が苦しくなった。 そして思った。 自分が今までやってきたことは何だったのだろう。仮に後輩二人の話すことがでたらめであったとしても、この会話で更に佳代の心は大きなダメージを受けた。
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