第一章

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それから一カ月と少し経った。今日はあのダメージを受けてから初めてのプレゼンの日だった。 あんなに熱心に取り組んでいたのに、あれ以降やる気が一向に出てこなかった。無理矢理頑張ることすらできなかった。 結局は在り来たりな内容にしか仕上がらなかった。でも、仕上がった。それだけで佳代は少しばかり安堵していた。 出勤時間は九時だ。 佳代はいつも通りの電車に乗ったので、八時四十五分には会社に到着した。会議は十時から会議室で行われる。 佳代は自分のロッカーにバッグを置き、携帯や財布、化粧ポーチが入ったサブのバッグだけを持ってデスクに座った。引き出しから社員証を取り出し、首から下げた。 パソコンを開き、資料の最終チェックをした。入社当初は全くできなかったパワーポイントも、随分上手になったと思う。 やがて深山も出勤してきた。佳代は、おはようございますと一言だけ言い頭を下げた。 今回会議に参加するのは佳代を含めた企画チームのメンバー全員だ。深山以外の五名がプレゼンテーションをし、深山の心に一番響いたものを取り上げる。その案を開発チームと調整しながら、開発に向けて取り組んでいくという流れだ。 九時五十五分には深山以外の全員が会議室に集合していた。十時になろうとした時、深山が会議室に入り会議がスタートした。 まず初めにプレゼンテーションを行うのはチームの中で一番の若手である堀田花苗だ。堀田は入社三年目である。緊張しているのか、たどたどしい話し方ではあるがプレゼンテーションは順調に進んでいった。 プレゼンテーションが終わると一同は、一応拍手をする。深山も一度深くうなずきながら手を叩いていた。 次にプレゼンテーションを行ったのは、あの時トイレで佳代のことを嘲笑った二人のうちの一人、脇田里奈だ。その後に、チームの中では佳代と同じくらい物静かな倉野由香里。倉野の次は脇田の相棒である増山花音。そして最後のトリは佳代だった。 資料を全員に配り、パワーポイントが映るスクリーンの前に立ちパソコンを操作しながら話し始めた。 早くも周りの目が気になってきた。きっと、全員心の中では笑っているのだ。自分はどうして、今ここに立っているのだろうか。そんな思いが込み上げてくる。 冷静を保ちながら何とかプレゼンテーションを終えた。小さく深呼吸をして、ありがとうございましたと挨拶をした。
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