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「こっ、このようなことが、キョキョキョキョ、教育委員会にバレたらどうするおつもりですかっ!!」
夫が教頭に怒られている。
思えばここ数日、夫は元気がなかった。
大好物であるはずのブリの刺身も2切れしか食べなかったし、
夜も寝言で誰かと会話しているようだった。
夫は教師生活30年。誰よりもまじめに働いてきた。
生徒のことを1番に考え、毎晩遅くまで何かのプリントを作り、土日も何かの部活の顧問として何かをやっているようだった。
そんな夫に毎日元気が出るようなお弁当を作ってあげることが、私の生きがいでもあった。
だがしかし、そんな真心弁当も最近は半分以上残してくる。
心配になった私は、今日夫を尾行し、学校に着いてきたのだった。
校長室に呼ばれた夫は明らかに元気がなかった。
私はあらかじめ、校長室の掃除用具箱の中に隠れ、隙間からじっと様子をうかがっていた。
「こっ、このようなことが発覚して、キョキョキョキョ、教育委員会にバレたらどうするおつもりですかっ!!」
教頭がプルプルと頬を震わす。
教頭の声は甲高いくせにこもりがちで、肝心なところは何を言っているのか分からなかった。夫も何かしゃべっているようだったが、いかんせん元気がなく、これも何を言っているのか全く分からなかった。校長は真一文字に口を結び、時々太い眉毛を動かすばかりであった。
リスクの割に何の成果もなかった私は、校長や教頭がいなくなった隙にとぼとぼと家に帰った。
「ただいま~。」
午後9時すぎ、夫が学校から帰ってきた。
「あなた、教頭から怒られてたでしょ?」
夫がギクリとして青ざめる。
「何があったの?言ってちょうだい!」
「わ、わ、わ、私は何もや、や、や、や、やましいことはしていないっっっ!!」
夫の顔がみるみるうち変色していく。
何かとんでもないことが起きたのだ。教育委員会に知られるとまずい、とんでもないことが。
「教えて!私はこの先、ご近所で顔をあげて歩けるのっ?!」
気が付くと私は泣いていた。
夫も泣いていた。
ふと窓の外を見ると、そこには教頭が立っていて、なぜか教頭も泣いていた。
とんでもないことが起きるのだ。
これからきっと、とんでもないことが起きるのだ。
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